人の話が聞けないのは「自己肯定感」が低いから   “聞き上手”になる秘訣とは?

 仕事でお客さんからのクレームを受ければ、どんなに理不尽な内容であっても真摯に応対する。相手が大事なパートナーや家族であれば、どんなグチでもやさしく耳を傾けてあげるべきだ。

 上記は2つとも、基本的には正しい話です。しかし一方で、頭では理解できても、どうも気持ちがついていかないという人もいるでしょう。

「そもそも相手の言っていることが間違っている。そんな話を聞く必要があるのか?」「こっちは忙しいのに、なぜそこまでして相手の話に時間をさかなければならないのか」そういった思いがつい浮かんでしまい、うまく聞けない。そんな人は、もしかしたら「自分のことを認められていない」という別の問題があるかもしれません。

 相手の話を共感をもって聞き、相手を認めてあげるためには、実は、自分を認めてあげること、つまり「自己肯定」が必要です。

 話を聞くことと、自己肯定感との間にいったい何の関係があるのか? すぐには2つが結びつかないかもしれません。

 私は、聞くことを専門にする仕事に携わって20年以上になります。その間、聞き方や「傾聴」についての数多くの入門書や実用書が絶えず出版され、人の話をうまく聞くためのテクニックや心構えは、繰り返し語られてきたと思います。私もその多くに目を通してきました。

 そういったノウハウを否定するつもりはまったくありません。ですが、そのような本がいくら売れても、周囲に「聞き上手」の人が増えたようには思えないのです。

 それはなぜなのでしょうか。

「聞く」ということには大きく分けて、次の3つの聞き方があると考えます。

1)情報を収集する聞き方
 相手の話を「何が事実なのか」という視点で聞く方法です。状況や事実関係に注目した聞き方で、例えば「いつ、どこで、誰が、何を、どうやって、なぜ」という5W1Hを、情報として捉えることが目的です。ビジネスなどにおいては、欠かせない聞き方です。

(2)自分中心の聞き方
 相手の話を「自分と同じかどうか」という視点で聞く方法です。相手が自分と同じ考えや感覚を持っているか、経験や知識、価値観を持っているか、共通点や相違点は何かという視点で聞いていきます。この聞き方では「同じ」であれば相手と仲良くなれますが、「違う」となれば仲違いしたり、言い争いの原因になります。

(3)相手中心の聞き方
 相手の話を「相手がどうなのか」という視点で聞くやり方です。

 そもそも自分と相手は違う価値観を持っているという前提で話を聞きます。よく似た経験があったとしても、その経験に対する思いが同じとは限りません。何を思い、何を大切にしているのか相手に興味を持ち、自分との違いをわかりあう聞き方で、「寄り添う」「支える」「そのまま理解する」のが特徴です。

「人の話を聞く」というときに、普通に思い浮かべるのは、主に(1)や(2)の聞き方ではないでしょうか。多くの人が日常的に行っている方法です。他方で、(3)の聞き方は、心理カウンセラーなどが行う「傾聴」という方法をベースにしているもので、やや特殊な聞き方だと感じられるかもしれません。

 しかし、私は(3)の方法こそが決定的に重要であると思っています。(3)の相手中心の聞き方を知っているかどうか、そしてそれを身につけているかどうかが、その人が「聞き上手」かどうかを左右します。それだけでなく、その人の人間関係、ひいては人生全体をうまく運ぶのに大きく関わっているのです。

 そして、この(3)の聞き方をマスターするために欠かせないのが、冒頭でお伝えした「自分を認める」ということなのです。

 自分を認められない人というのは、多くの場合、他人に対しても同様に振る舞いがちです。そのことが、相手の話をきちんと聞くことを難しくさせます。

 自分に厳しい人は他人にも厳しく、いろいろなことが許せず、話が聞けなくなります。

 また、やたら相手に細かい人、相手の欠点ばかりが見えて、それを指摘したり、気にしている人は、誰にも好かれないだけでなく、相手と同じくらい自分の短所も欠点も見えている状態がずっと続きますから、それでメンタルに不調をきたしたり、心身の不調をうったえるようになります。

 心理学やカウンセリングの理論では、すべての人間関係は、自分を映し出すただの鏡だと捉えます。もし、相手の話を聞いて嫌な気持ちになったり、イライラしたりするのであれば、そのネガティブな感情は、すべて自分を映しているのです。

 相手の話をきちんと聞ける人というのは、自分自身との関係が良好な人です。

 自分で自分を褒めることができて、ときに「できない自分」も認めることができて、自分で自分を許せる人なら、そういう人は相手の良い部分に目が行きやすく、できていない相手も認められて、相手を許せる人です。私がこれまでに出会った本当の「聞き上手」たちは、この点で共通していました。

 聞き方について教える本がいくら読まれても「聞き上手」が一向に増えないのは、多くの聞き方本やノウハウが、この「自己肯定」という点を軽視しているからではないでしょうか。

 そもそもなぜ相手の話を聞かなければならないのか、そう感じてしまう人は、自分が自分のことをちゃんと認められているかどうか、一度自問してみてください。そして、人の話を聞くときに、相手を認め、同様に自分を認めるよう意識してみてください。

 聞き方についての小手先のテクニックをいくつも学ぶよりも、人とのコミュニケーションが劇的に改善するかもしれません。