相手が理不尽なことを言っていると思えるとき

 相手が怒っているとき、「どう考えても自分は悪くない」「悪いのは怒っている相手のほうだ」という思いを抱きたくなることはあるものです。

 しかし、いくらそれを論理的に伝えたところで、相手の怒りが収まるとは限りません。

「自分は悪くない」という思いは、相手の主張への反発心を生み、共感モードで聞くことを難しくしてしまうことになるからです。

 たとえばAさんが、パートナーであるBさんから頼まれた用事を果たすことができず、そのことで責められたとします。

 Bさんは、ある期限までにAさんの勤め先から書類を取ってきてもらうようお願いしていました。Aさんはすぐに手続きをしましたが、どうしても期限に間に合いませんでした。 

 それに対して、Bさんは怒ってAさんを非難します。

 その場合、もしできる限りのことをしたにもかかわらず責められているのだとしたら、Aさんとしては納得できない思いが残っても当然です。

 しかしそんなときは、「うなずき」「相づち」「繰り返し」を使った会話に戻し、相手に反応するようにします。

 もちろん、「そんなに大事なことなら、早く言ってくれよ」と感じても無理はありません。しかし、そんな言い訳をしたところで相手の怒りは治らないのです。

 それどころか、状況が余計ひどくなる可能性も。相手は、理路整然と説明されたら納得するというわけではないからです。

 また、自分に非があろうがなかろうが関係ありません。とにかく相手は、間に合わなかったこと、ただその一点に感情的になっているからです。

 だとすれば、納得できなかったとしても、それを受け入れることが大切だということです。

 

【初めから自分は聞いていたか?】

 できることは、自分の考え方をコントロールすることのみ。そのために、私は自分の心のなかに生じる「雑音(ノイズ)」を取り除くことを勧めています。

 冷静になって考えます。そもそもはじめにBさんから、会社の書類を取ってくるようにお願いされたとき、Aさん自身はどんな様子だったでしょうか?

 何日までにほしいという、あまりに差し迫った(ように思われた)期限を言われて、Aさんの心に以下のような雑音が生じて、相手の話を聞けていなかったのではないでしょうか。

(またギリギリになってこういうのを頼んでくるんだから)
(こいつはいつもこうだ。何でも物事を先延ばしにする)
(いまから間に合うわけがない)

 こうした心の声は、部分的にはそのとおりなのかもしれません。

 しかし、Bさんが「なんでも物事を先延ばしにする」というところはAさんの想像にすぎません。「きっと間に合わない」というのも、Aさんの決めつけです。

 つまり、そのような雑音が多すぎると、はじめから会社に事情を説明して急いで手続きしてもらおうという気すらなくなってしまうものだということ。

 

【心の雑音が消えたとき、相手の気持ちが聞こえはじめる】

 Aさんが心の雑音をなくすことができていれば、Bさんからお願いされたときに話をきちんと聞き、スムーズなコミュニケーションを実現できたはず。

A:ああ、あまり時間がないようだね
B:そうなの。私も急いだんだけど、間に合わなくて
A:そうか。うちはすべて本社に申請するから時間がかかるよ
B:そうだよね。時間がかかるよね
A:とりあえずこちらも急いでみるよ
B:ありがとう

 こんなふうに相手の気持ちが少しでも聞こえはじめたなら、自分の対応も、2人のやりとりも、なにより2人の関係が、お互いに信頼できるものに変わっていくはずです。

『1分で信頼を引き寄せる「魔法の聞き方」』(朝日新聞出版)にまとめられた方法論やコツを身につければ、誰もが人の話を上手に聞けるようになります。

 話し手も聴き手もより楽に話を聞けるようになり、お互いを傷つけることなく円滑なコミュニケーションがとれ、より深いところで理解し合えるようになるのです。

 人の話を聞くことに苦手意識をお持ちの方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。