ちゃんと聞いているのに、なぜ「ねえ!聞いてるの?」と言われるのか

 パートナーの話をちゃんと聞いていたのに、急に「ねえ!聞いてるの?」と怒られた。仕事で顧客からの要望を真剣に聞いていたのに、「おい、話を聞け!」と怒鳴られた。こんな経験はありませんか。

 それは、実はあなたが無意識に「聞いていません」というメッセージを送り続けているからかもしれません。日常的に頻発する「聞いている、聞いていない」問題のすれ違いについて、お話していきます。

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 人はみな無自覚に「聞いていません」というメッセージを送り続けています。

「まさか、自分はそんなことしていない!」と思われるでしょうか?

 しかし、私たちは、コミュニケーションをするときに、常に言葉以外の要素でも相手に多くの情報を伝えています。アイコンタクトや表情、姿勢、声の大きさなどは、ときに言葉よりもはるかに強力な伝達手段になります。

 アメリカの心理学者アルバート・メラビアン氏の調査によれば、会話において相手の言語表現と非言語表現が矛盾している場面では、93%の人が非言語表現の方を重視するとされています。

 例えば、相手が「やめてください」と口で言いながら、一方で顔が笑っている場合、受け手は笑顔の方を重視して「拒否されていない」と判断する傾向があるということです。

 つまり、態度の如何によっては、知らず知らずのうちに、相手に「聞いていない」というメッセージを発してしまうことがありえるのです。

 臨床心理学者の平木典子さんの整理によれば、例えば、次のような態度です。

 ・視線を相手に向けない
 ・腕を組んだり、横を向いたり、ふんぞり返った姿勢をとる
 ・下を向いたり、本や手帳を開いたりする
 ・ほかのことを考えているような顔つき、なま返事をする
 ・相手の話を途中で遮る、自分の話をはじめる

 もしあなたが上司だとして、部下が相談に来たとき、パソコンの画面から目を離さずにキーボードを叩きながら、なま返事をしていませんか。

 また、パートナーに話しかけられたとき、何か作業をしながら返事をすることがないでしょうか。グチを聞かされそうになったときに、話を先取りして自分の考える解決の提案をしていませんか。

 

 こういった何気ないしぐさや動作が、相手にとっては「話を聞いていない」という情報として伝わってしまうのです。そして、それが積もり積もった結果、「あなたはいつも人の話を聞かない」などと言われます。

 つまり、話を聞いているかどうかというのは、相手の発声をちゃんと耳で聞き取っているか、あるいは、情報をしっかり理解しているかということとは違うレベルで判断されているのです。

 これを改善するのは、実は簡単です。逆に「聞いている」というメッセージを送るように意識すればいいのです。そのためには、基本的なことではありますが、うなずきと相づちを、意図的に行うことです。

 まずは「はい」「ええ」「そうですね」といった一般的な相づちを、しっかりとうなずきながら絶やさず行うようにします。

 相手に同意できるときには「おっしゃるとおりです」「同感です」、知らない話を聞いたら「そうなんですか!」「知りませんでした」、興味のある話題には「それは面白いですね」「びっくりです」「さすがですね」などと、多少変化をつけて返すのがいいでしょう。

 聞き手にとっては「少し多すぎるかな」というくらいの頻度でも、「ちょっと大げさかな」と思うような表現でも、話し手にとってはちょうどいいくらいだと思ってください。

 そうすることによって、話し手は無意識のレベルで「聞いてもらえている」と感じ、安心して話し続けることができるのです。

 私は以前、パートナーシップの世界的権威として知られる心理学者ジョン・グレイ博士から、相手の女性が怒っていたり、グチを言ってきたときに男性が女性にかけるべき適切な言葉というものを教えてもらったことがあります。

 それは、「その話、もっと聞かせて」という相づちでした。

 以来、私はずっとこの相づちを心がけています。グチをもっと聞かせて欲しい、なんて不自然じゃないかと思われるかもしれません。しかし、そのおかげか、私は現在まで女性とケンカになることはほとんどありませんでした。

 あまりに疲れているときなど、さすがに話を聞けないと思うときは、相手にその理由を説明してわかってもらいますが、そうでなければ、相手の話には耳を傾けます。その際、こちらから余計なアドバイスなどはせず、ただ「聞いているよ」というメッセージだけを示します。

 実際にはそれで十分なのです。相手は、ただ「話を聞いてもらいたい」だけなのですから。