怒っている人はまず受け入れる。人の信頼を得る話の聞き方

 私は20年以上にわたり、大手通信会社のコールセンター業務を通じて人の話を聞き続けてきました。そうした経験を積み上げていく過程において、聞き手の「聞き方」の違いによって、会話の流れや話し手の状態が大きく変化することを実感したのです。

 それはまさに「魔法の聞き方」とでも言えるようなもので、つまり、うまい聞き方をすることができれば、まるで魔法を使っているかのような効果を引き出せるということです。

 現代は、「話を聞いてくれる人がいない」「誰にもわかってもらえない」という悩みを抱えている人が多いと言われます。

 誰もが「自分の思いを伝えたい」「自分を表現したい」という気持ちを持っています。人の話にしっかり耳を傾けて聞くことは、そうした人がもともと持っている欲求に応えることになります。

 さらには、その人を受け入れる、その人の存在にOKを出すことにもなるため、その結果として相手はこちらを信頼し、心を開いてくれるのです。

 相手から安心、信頼を得られやすい話の聞き方ができれば、会話がスムーズに進むだけでなく、同僚や上司、友人、パートナー、家族などとの身近な人間関係にもよい影響が現れます。

 聞く力をつければ、まわりに人が集まってくるようになるわけです。

『1分で信頼を引き寄せる「魔法の聞き方」』という本において私は、自らの経験に基づいた「聞き方」のスキルを明らかにしています。

 また、これまで学んできた心理学や心理カウンセリングの知識や技術をも用い、さまざまな「実戦できるテクニック」も盛り込んでいるのです。

 きょうは本書の第3章「ストレスフリーに聞く技術」のなかから、多くの方にとっての悩みであるに違いない「怒っている人の話を聞く」に焦点を当ててみたいと思います。

 

【まず怒りの炎を十分に吐き出させる】

 怒りをぶつけてくる人の話を聞くことは、とても難しく厄介なもの。誰にとっても嫌なものではないでしょうか。

 ところで、怒りが頂点に達している人、感情的な言葉が止まらない人に、絶対にしてはいけないのは「言い訳」をすることです。

 なぜなら言い訳をすると、相手は「責任逃れしている」と受け取ったり、「自分が気分を害したことに対する謝罪はないのか」などと思うものだから。

 そして、「自分の話を遮られた」という不満から、怒りがさらに大きくなるのです。

 怒っている人の話を聞く場合、大切なのは「共感」と「うなずき・相づち・繰り返し」。

 しっかりとしたうなずきと相づちを行い、話のポイントを繰り返しながら、こちらが相手の話を理解しているのだということをわかってもらうわけです。

 そして相手が話しているうちは、余計な言葉がけや質問をしないように気をつけ、気持ちの「主訴」に対して謝罪することが大切。

 なお怒っている人に対しては、「ゆっくり、低い声」でうなずきや相づちを行うことが重要なポイントです。

 怒りの気持ちをぶつけてくる人というのは、怒りをどうにかしたい、この怒りをわかってほしい、と思っています。

 聞く方ももちろん苦しいのですが、話す本人が一番苦しんでいます。

 人の怒りの気持ちの奥には、話を聞いてもらえないこと、自分がないがしろにされたことへの悲しみや失望、焦燥、不安、恐怖など様々な思いが混交しているため、その苦しみから無意識に自分を守ろうとして、つい相手を攻撃してしまうのです。

 そのような人に対して反発モードになって反論すると、「話を聞いてもらえない」と思われ、さらにヒートアップしてしまいます。

 だからこそ、その人の怒りの気持ちに「共感」を示すことが大きな意味を持つのです。

 

【「ねえ、聞いてるの?」と言われたら】

 怒っている人はしばしば、相手に対して「おい、聞いているのか?」「ねえ、聞いてるの?」というような言葉を発するもの。

 しかし、そんなとき「聞いているよ」と答えてもあまり意味がありません。なぜなら話し手の「聞いているのか?」は、単なる質問ではないから。

 そこには、「あなたは聞いていない」と主張する気持ちが込められているのです。つまり「聞いているよ」という返答では、相手はその判断を改めることができないわけです。

 怒っている人には、「そのとき話を聞いてもらえなかった」「いま話を聞いてもらえていない」「わかってほしい」というような気持ちがあるもの。

 そこで、「おい、聞いているのか?」に対しては、「◯◯ということだよね。もちろん聞いているよ」と、相手の話を要約して伝え返すことが有効。

 なぜならそうすれば、相手には「気持ちをわかってもらえた」という感覚を持ってもらえるからです。

 仕事でクレームを受けた場合であれば、相手の主張を正しく理解することに徹するべき。

 たとえば「聞いているのか?」と言われたときに、いちばんよくないのは「はい、聞いております」「聞いておりますので、こちらの話も聞いてください」などと返すこと。

 相手が話しているうちは、
 1. しっかりとしたうなずき、相づち
 2. 事実関係のポイントの繰り返し
 3. クレームを入れたくなる気持ちの表現の繰り返し

 これら3つの態度を心がけ、余計な言葉がけや質問をしないように気をつけ、気持ちの主訴に対して謝罪するようにすべきです。

 相手:コラ、聞いてるのか!
 聞き手:はい◯◯で、◯◯されたということですね。そうでしたか、大変申し訳ありません。

というように。

人の話が聞けないのは「自己肯定感」が低いから “聞き上手”になる秘訣とは?

 仕事でお客さんからのクレームを受ければ、どんなに理不尽な内容であっても真摯に応対する。相手が大事なパートナーや家族であれば、どんなグチでもやさしく耳を傾けてあげるべきだ。

 上記は2つとも、基本的には正しい話です。しかし一方で、頭では理解できても、どうも気持ちがついていかないという人もいるでしょう。

「そもそも相手の言っていることが間違っている。そんな話を聞く必要があるのか?」「こっちは忙しいのに、なぜそこまでして相手の話に時間をさかなければならないのか」そういった思いがつい浮かんでしまい、うまく聞けない。そんな人は、もしかしたら「自分のことを認められていない」という別の問題があるかもしれません。

 相手の話を共感をもって聞き、相手を認めてあげるためには、実は、自分を認めてあげること、つまり「自己肯定」が必要です。

 話を聞くことと、自己肯定感との間にいったい何の関係があるのか? すぐには2つが結びつかないかもしれません。

 私は、聞くことを専門にする仕事に携わって20年以上になります。その間、聞き方や「傾聴」についての数多くの入門書や実用書が絶えず出版され、人の話をうまく聞くためのテクニックや心構えは、繰り返し語られてきたと思います。私もその多くに目を通してきました。

 そういったノウハウを否定するつもりはまったくありません。ですが、そのような本がいくら売れても、周囲に「聞き上手」の人が増えたようには思えないのです。

 それはなぜなのでしょうか。

「聞く」ということには大きく分けて、次の3つの聞き方があると考えます。

1)情報を収集する聞き方
 相手の話を「何が事実なのか」という視点で聞く方法です。状況や事実関係に注目した聞き方で、例えば「いつ、どこで、誰が、何を、どうやって、なぜ」という5W1Hを、情報として捉えることが目的です。ビジネスなどにおいては、欠かせない聞き方です。

(2)自分中心の聞き方
 相手の話を「自分と同じかどうか」という視点で聞く方法です。相手が自分と同じ考えや感覚を持っているか、経験や知識、価値観を持っているか、共通点や相違点は何かという視点で聞いていきます。この聞き方では「同じ」であれば相手と仲良くなれますが、「違う」となれば仲違いしたり、言い争いの原因になります。

(3)相手中心の聞き方
 相手の話を「相手がどうなのか」という視点で聞くやり方です。

 そもそも自分と相手は違う価値観を持っているという前提で話を聞きます。よく似た経験があったとしても、その経験に対する思いが同じとは限りません。何を思い、何を大切にしているのか相手に興味を持ち、自分との違いをわかりあう聞き方で、「寄り添う」「支える」「そのまま理解する」のが特徴です。

「人の話を聞く」というときに、普通に思い浮かべるのは、主に(1)や(2)の聞き方ではないでしょうか。多くの人が日常的に行っている方法です。他方で、(3)の聞き方は、心理カウンセラーなどが行う「傾聴」という方法をベースにしているもので、やや特殊な聞き方だと感じられるかもしれません。

 しかし、私は(3)の方法こそが決定的に重要であると思っています。(3)の相手中心の聞き方を知っているかどうか、そしてそれを身につけているかどうかが、その人が「聞き上手」かどうかを左右します。それだけでなく、その人の人間関係、ひいては人生全体をうまく運ぶのに大きく関わっているのです。

 そして、この(3)の聞き方をマスターするために欠かせないのが、冒頭でお伝えした「自分を認める」ということなのです。

 自分を認められない人というのは、多くの場合、他人に対しても同様に振る舞いがちです。そのことが、相手の話をきちんと聞くことを難しくさせます。

 自分に厳しい人は他人にも厳しく、いろいろなことが許せず、話が聞けなくなります。

 また、やたら相手に細かい人、相手の欠点ばかりが見えて、それを指摘したり、気にしている人は、誰にも好かれないだけでなく、相手と同じくらい自分の短所も欠点も見えている状態がずっと続きますから、それでメンタルに不調をきたしたり、心身の不調をうったえるようになります。

 心理学やカウンセリングの理論では、すべての人間関係は、自分を映し出すただの鏡だと捉えます。もし、相手の話を聞いて嫌な気持ちになったり、イライラしたりするのであれば、そのネガティブな感情は、すべて自分を映しているのです。

 相手の話をきちんと聞ける人というのは、自分自身との関係が良好な人です。

 自分で自分を褒めることができて、ときに「できない自分」も認めることができて、自分で自分を許せる人なら、そういう人は相手の良い部分に目が行きやすく、できていない相手も認められて、相手を許せる人です。私がこれまでに出会った本当の「聞き上手」たちは、この点で共通していました。

 聞き方について教える本がいくら読まれても「聞き上手」が一向に増えないのは、多くの聞き方本やノウハウが、この「自己肯定」という点を軽視しているからではないでしょうか。

 そもそもなぜ相手の話を聞かなければならないのか、そう感じてしまう人は、自分が自分のことをちゃんと認められているかどうか、一度自問してみてください。そして、人の話を聞くときに、相手を認め、同様に自分を認めるよう意識してみてください。

 聞き方についての小手先のテクニックをいくつも学ぶよりも、人とのコミュニケーションが劇的に改善するかもしれません。

ちゃんと聞いているのに、なぜ「ねえ!聞いてるの?」と言われるのか

 パートナーの話をちゃんと聞いていたのに、急に「ねえ!聞いてるの?」と怒られた。仕事で顧客からの要望を真剣に聞いていたのに、「おい、話を聞け!」と怒鳴られた。こんな経験はありませんか。

 それは、実はあなたが無意識に「聞いていません」というメッセージを送り続けているからかもしれません。日常的に頻発する「聞いている、聞いていない」問題のすれ違いについて、お話していきます。

*  *  *
 人はみな無自覚に「聞いていません」というメッセージを送り続けています。

「まさか、自分はそんなことしていない!」と思われるでしょうか?

 しかし、私たちは、コミュニケーションをするときに、常に言葉以外の要素でも相手に多くの情報を伝えています。アイコンタクトや表情、姿勢、声の大きさなどは、ときに言葉よりもはるかに強力な伝達手段になります。

 アメリカの心理学者アルバート・メラビアン氏の調査によれば、会話において相手の言語表現と非言語表現が矛盾している場面では、93%の人が非言語表現の方を重視するとされています。

 例えば、相手が「やめてください」と口で言いながら、一方で顔が笑っている場合、受け手は笑顔の方を重視して「拒否されていない」と判断する傾向があるということです。

 つまり、態度の如何によっては、知らず知らずのうちに、相手に「聞いていない」というメッセージを発してしまうことがありえるのです。

 臨床心理学者の平木典子さんの整理によれば、例えば、次のような態度です。

 ・視線を相手に向けない
 ・腕を組んだり、横を向いたり、ふんぞり返った姿勢をとる
 ・下を向いたり、本や手帳を開いたりする
 ・ほかのことを考えているような顔つき、なま返事をする
 ・相手の話を途中で遮る、自分の話をはじめる

 もしあなたが上司だとして、部下が相談に来たとき、パソコンの画面から目を離さずにキーボードを叩きながら、なま返事をしていませんか。

 また、パートナーに話しかけられたとき、何か作業をしながら返事をすることがないでしょうか。グチを聞かされそうになったときに、話を先取りして自分の考える解決の提案をしていませんか。

 

 こういった何気ないしぐさや動作が、相手にとっては「話を聞いていない」という情報として伝わってしまうのです。そして、それが積もり積もった結果、「あなたはいつも人の話を聞かない」などと言われます。

 つまり、話を聞いているかどうかというのは、相手の発声をちゃんと耳で聞き取っているか、あるいは、情報をしっかり理解しているかということとは違うレベルで判断されているのです。

 これを改善するのは、実は簡単です。逆に「聞いている」というメッセージを送るように意識すればいいのです。そのためには、基本的なことではありますが、うなずきと相づちを、意図的に行うことです。

 まずは「はい」「ええ」「そうですね」といった一般的な相づちを、しっかりとうなずきながら絶やさず行うようにします。

 相手に同意できるときには「おっしゃるとおりです」「同感です」、知らない話を聞いたら「そうなんですか!」「知りませんでした」、興味のある話題には「それは面白いですね」「びっくりです」「さすがですね」などと、多少変化をつけて返すのがいいでしょう。

 聞き手にとっては「少し多すぎるかな」というくらいの頻度でも、「ちょっと大げさかな」と思うような表現でも、話し手にとってはちょうどいいくらいだと思ってください。

 そうすることによって、話し手は無意識のレベルで「聞いてもらえている」と感じ、安心して話し続けることができるのです。

 私は以前、パートナーシップの世界的権威として知られる心理学者ジョン・グレイ博士から、相手の女性が怒っていたり、グチを言ってきたときに男性が女性にかけるべき適切な言葉というものを教えてもらったことがあります。

 それは、「その話、もっと聞かせて」という相づちでした。

 以来、私はずっとこの相づちを心がけています。グチをもっと聞かせて欲しい、なんて不自然じゃないかと思われるかもしれません。しかし、そのおかげか、私は現在まで女性とケンカになることはほとんどありませんでした。

 あまりに疲れているときなど、さすがに話を聞けないと思うときは、相手にその理由を説明してわかってもらいますが、そうでなければ、相手の話には耳を傾けます。その際、こちらから余計なアドバイスなどはせず、ただ「聞いているよ」というメッセージだけを示します。

 実際にはそれで十分なのです。相手は、ただ「話を聞いてもらいたい」だけなのですから。